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「でも、スクールアイドルならできる。ルビィでも、アイドルになれるの。本当に本物の、あのアイドルに、ルビィがなれる。なれるんだ」 「花丸ちゃんがいいの。……ううん。花丸ちゃんがいてくれなきゃ、駄目なの」 「えへへ……もしかしたら、子どもの頃にバレエやってたからかも」 「この人たち、〝μ,s〟ってグループなんだけどね。あのね、――……」 「……ごめんね。ルビィも何も聞いてないの。千歌ちゃんが帰ったあと、お姉ちゃん、何もなかったみたいにさっさとお勉強始めちゃって……ルビィには、やるなら精一杯頑張りなさいって言ってくれたんだけど」 「大丈夫だよ。ルビィ、千歌ちゃんの言ってること、ちゃんと全部わかるよ」 「あ、えへへ……お裁縫は慣れてるほうなんだけど、やっぱりいくつも作ってると手が疲れてきちゃって。大丈夫だよ、ちくってしたくらいだから」 「ルビィは、お姉ちゃんなら、わかってくれると思ってた。おねえちゃんだから、わかってほしかった」 「それが、お客さんに一番伝わるものだと思う。パフォーマンスのレベルとか、技術とか、そういうのも大切だけど……一番伝わるのは、ルビィたちの気持ちだと思う! だからっ、」 「危ないのも、つらいのも、ルビィはいやだよ。……ルビィ一人なら別にいい。こんなの、ほんとになんでもない。でもみんながそういう思いをしちゃうのは、いやだよ」黒澤ルビィ(一年)
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「オラはな、ルビィちゃんのためにスクールアイドルやるよ」 「……千歌ちゃんたちがいるんだろ? 別に、ルビィちゃんは一人じゃないはずずら」 「だから、もしな。もしも、ルビィちゃんの思うスクールアイドルと千歌ちゃんの思うスクールアイドルが違ったら、そのときはオラは考えるよ」 「……うちじゃあ、泣く子とルビィちゃんには勝てねってよく言うけんどさ」 「……スクールアイドル? って、最近ルビィちゃんがパソコンでよく見てたあれか? ……あれを、ルビィちゃんがやるの?」 「そだな。人の真似だけしてても自分の力にはならないずら」 「違うんだ。内容じゃない。ここに書き込んでるこの人たちも、悔しくて、悲しくて、どうしようもなかったんだろうなと思ったんだ。でもそれを誰にも言えないから、誰かに言えるようなことじゃない気持ちを持っちゃったから、ここで一人で苦しんでる。ああ、みんな一人なんだ……って思ったんだ。それで、悲しくなったんだ」 「でも、一瞬恨んで、すぐに気付いたんだ。昔はこんなこと考えなかったって。占いがどんな結果になろうと、オラはそれにおとなしく従ってきた、って。―だって、それが天命だから」国木田花丸(一年)
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「あなたたちのために、一曲書きます。でも、それで終わりです」 「……自分のことを子供だって言える人はね、もう大人なんだよ」 「そうかな。……まだ知り合ったばかりだし、それこそ曜ちゃんや幼馴染の人たちに比べたら、全然仲良くないと思う。でも、私にとって、千歌ちゃんって少し特別なの。自分の命とか未来とか、世界に溢れてる大きな括りのものよりは劣るかもしれない。でも、他の人と比べたらちょっとだけ上。そんな感じ」 「私は地味だし、アイドルなんて向いてないよ。それに、……」 「すごく、うれしかったの。私のこれ、いらないものじゃないんだって思った。誰かに劣ったりするものじゃないんだって、やっと信じられた気がした。……もっと、作ってみたいって思った」 「みんなで一緒に海に行こうって。この前話したでしょ? 私、みんなと仲良くなれたかな。一緒に行っても大丈夫かな?」 「わからないんだよ。わかってよ」 「いい加減にしてよ!! 千歌ちゃんのやりたいことは、こんな風に誰かを責め立てなきゃ成功しないことなの!? 輝く輝くって、じゃあ千歌ちゃんにとっての輝くってなんなの!? どうしたいの、何をすればいいの!? 私たち何もわからないよ、聞いてないもの! 千歌ちゃんが教えてくれなきゃわかるわけない! そんなに輝きたいなら全身に電飾でも巻いて踊ってればいいじゃない、ねえっ!?」桜内梨子(二年)
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「あはは、なんで謝るのさ?別に曜は千歌ちゃんに誘われなくても悲しくないよ。まあ千歌ちゃんどうこうじゃなくて、みんなで何かやってるのはいいなーって思ったりはするけど」 「まあ、千歌ちゃんとわたしって学年も違うから、幼馴染って言ってもそこまでべったりってわけじゃないんだよ。同い年だったらまた何か違ってたのかもしれないけど」 「わたし高飛び込みやってるから。たぶん、そのこと考えてくれてるんじゃないかな」 「違う!! あのタイミングで誘ったのがおかしいって言ってるんだ!!」 「曜は、最初から何も怒ってなんかなーいよ。」 「怒ればいいじゃん。千歌ちゃんが怒ったって曜は全然怖くないよ」 「うん! でも暇だから、今から淡島まで遠泳しようかって話してたところぉー」 「しょうがないよ。もう決まったことだもん」 「千歌ちゃんの言うことにはもうだいたい慣れてるから平気だよ」 「あと二つあるじゃん。さすがにそれまで奪うほど曜ちゃんは鬼じゃないですよー」 「梨子ちゃん先輩、なにする!? 何して遊ぶ!?」 「でも、また一緒に何かできたらなぁって、ちょっと思ったことはあるんです」渡辺曜(一年)
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「劫火の魔界から降臨した奇跡の堕天使、ヨハネよ。気軽にヨハネって呼んで、リリー」 「みゅーず。これさ、いいじゃない。みんな自分の雰囲気に合った衣装を着てて、しかも可愛い。きっとすごく楽しいんだろうな、いきいきしてるなって、この動画見てるだけで伝わってくる。……馬鹿になんか、されないんだろうなって。……いいわね、こういうの」 「ここまでの流れは、だいたい千歌と果南から聞いてるわ。あんたが最初にこの誘いを断ったのも、生徒会長として廃校の話を知ってたのも知ってる。どうにもならないことなんだってこの子のことを説得したのもね。実際正しいと思うわよ、私も同じ意見だもの。この町ってさ、ずっとそう、ゆるやかに死んでいってる。そうでしょ?」 「どんなアンラッキーも、自分に爆発的なパワーがあればきっと全部吹き飛ばせる。でしょ? ほら、ぐずぐず泣いてる暇ないわよ!」 「……『主なる神は、野のあらゆる獣、空のあらゆる鳥を土で形づくり、人のところへ持ってきて、人がそれぞれをどう呼ぶか見ておられた。人が呼ぶと、それはすべて、生き物の名となった』……ね」 「それはそれとして騙したことは根に持つわよ! おばあちゃんになっても根に持つわよ!」 「フフ……そうね……強いて言うなら……リリーのリトルデーモン化計画を練るのはどう?」 「一回断られたくらいで諦めてちゃどうしようもないわよ」 「私のバカなリトルデーモン。爪なんて切っちゃえばいいのよ。今夜にでもね。それで全部おしまい、そうでしょう?」津島善子/ヨハネ(二年)
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「ルビィがわたくしではないように、わたくしもルビィではないのよ。……あなたにも、それを理解してもらう必要があるみたいね」 「あなたには、スクールアイドルはできません。……あなたには、無理です」 「そうね、ルビィにも……もし叶うならルビィにも、それを知ってほしいわ。わたくしの我儘ですけれど、ね」 「なのにそれでは、道理が通りませんわ。……あなたは仮にもリーダーなのであれば、そんな簡単に自分の発言を曲げてはいけません。わたくしは、」 「夢は夢、です。いつまでも身にならないことを思い返している暇があったら、五限の小テストの心配でもなさったらいかが?」 「あなたたちが暑苦しいと言っているんですけど」 「ええ、分かって頂けて助かります。……だからわたくし、その点においてはあなたに感謝しているのよ? 先の見えない自転車操業でも、とりあえずあの子に挑戦する機会を与えてくれましたもの」 「このっ、……大馬鹿者!!」 「びっくりするほど図々しいですわね……。まあ、いいでしょう。『小原さん』も知らない仲ではありませんしね」 「勝負を投げるのは最低の行いです。どんな理由があれ、その道を選ぶ者は、最悪の臆病者です」黒澤ダイヤ(二年)
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「だってアイドルって、あれでしょう?ぜーったい揃いのフリルのユニフォームを着ないといけないし、キンダーの頃のお遊戯会みたいなダンスをみんなで踊らないといけないし、あと恋愛に関して人権がないのよね?ムリムリ!私はまだナチュラルライフを満喫していたいし、そういうのはちょっと……なぁ〜♡」 「人に尋ねるときはまず自分から名乗るものよ、お嬢ちゃん。Who are you?」 「勘違いしないでね、別にそれがどうこうって言うんじゃないのよ。ただ、本当にもったいないと思っただけ。あなたはきちんと手を伸ばすことができたのに、掴み取ることができたのに、それを自分から捨ててしまうような真似は、できればしないでほしいだけ」 「私? スクールアイドル? やらないわよ。今日はヒマだったから果南に付き合っただけ」 「……じゃあ黒澤さんは、そう思えるの? 家と自分のことは、切り離して考えられるの?」 「やっぱり、私は向いてないみたいだから。遠くから見学させてもらうね♡ ……やぁね。変な顔しないでよ、果南ったら」 「You're kidding! アナタにだけは言われたくないわ、そんなの!」 『一週間以内ねぇ。果南もまぁ、随分と思い切った要求出してきたなって思うけど……Fight. 千歌。ここが頑張りどころよ?』 「でも、おかしいわ。転校してくる生徒を受け入れるとなれば、当然学校側から説明はあったはずよ。何も聞いていないなんてこと、ありえない」 「No,No,No. Yes でもありNo よ。あなたはこの内浦で何を作ったの? 何にこだわってこの結果を招いたの? あなたが大事にしたかったものはなあに? それを考えれば、その後に考えるべきことは自然とわかるはずだわ」 「膠着している、って言うのかしら。みんなどうしていいか分からないんだと思うのよね」 「愛してるわ、パパ。癪なことにね」小原鞠莉(三年)
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「まあ、千歌は昔から可愛い妹みたいなもんだからさ。あの子が何かやりたいっていうんなら、あ、じゃあ協力してあげなきゃなって思ったのもほんと。でも私、本当にそれだけで付き合ってあげたわけじゃないんだよ」 「大人になるってのは、子供の当たり前が通じなくなる世界に身を置くことだっておじいが言ってた」 「どっちが悪い合戦なんか、悪いけど私はなーんも興味ないんだよ。だからこれでおしまい! おしまいったらおしまい! えっと、『梨子ちゃん』?」 「……違うよ。ただ単に、みんなで一緒にいられたらいいねって。それだけ」 「のーみそある人間がこれだけ集まっといてねえ。あっはっは」 「千歌がごめんね。でも、けしかけちゃったのは私なんだ。友達に作曲できる子がいるって言うからさ、だったらその子に頼んでみろって、私が言ったんだよ。ごめんね、迷惑かけて」 「仮に私がイヤ~ン高いところこわ~いなんてクネクネしたら可愛いと思う? 型にはめられるのはまっぴらだね」 「……じゃあ千歌は、どうすればいいと思う?」 「ははは、だろうね。あんたも曜も、私のそういうところをわかった上で付き合ってくれてたもんね。おかげで生きやすかったよ」松浦果南(三年)
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「この学校を好きでいる子。この町を、愛している子。……おおげさかもしれないけど、わたしはそんな子と一緒にスクールアイドルをやりたい」 「浦女のこと、みんなそんな好きじゃないのかな?」 「浦女はこんなに楽しい学校だったんだって!ここにあったんだって、ずっと覚えていてほしい!ー内浦のみんなにも、ここに集まったみんなにも!」 「玄関ホールのマリア像。チカ、あそこ好きなんだよね。うまく言えないけど」 「どうせ廃校になっちゃうのに、今から始めても意味あるの……?」 「いろんな人に、覚えておいてほしいの。浦女がここにあったんだってこと。学校がなくなっちゃっても、みんなのいた思い出は守りたい。……いつかチカたちがおばあちゃんになった時に、あんなことがあったね、懐かしいねって、ちゃんと思い出せるように。だからチカ、スクールアイドルやるんだ」 「……わたし、何かひとつのことを続けられたことって、ないし。そう考えたら、できる気、全然しないし……」 「スクールアイドル! ―私たちも、スクールアイドルやろうよ!!」 「あのね。チカね、本気なんだ」 「本気で、スクールアイドルやりたいって思ってる。いろんなこと、周りに頼ってばっかりで……自分が言い出しっぺのくせに、ぜんぜんリーダーらしいことできてないけど。でも、すっごく本気で、すっごくやりたいって思ってる。こんなに頑張りたいって思ったこと、人生で初めてってくらい」 「……わからないはずない。梨子ちゃんはそれ、絶対わかってるはずだよ」 「みんなで、キラキラしよう! がんばって、がんばって、いっぱい輝こう! ―スクールアイドルなら、きっとそれができるよ!」高海千歌(二年)
pray for your smoldering
告知サイト
私たちの通った学校は、なくならない。
ずっとそこに在り続ける。
記憶の中、想い出の残滓、なつかしい風の吹くあの小高い岬の上に。
サークル Arcturus
C96 3日目(日) 南ラ20a
文庫/小説/780p/2500円
サンプル:pixiv
書店委託:メロンブックス
- 著者:耀斗(@aki_hulf)
- イラスト提供:ぱいしぇん(@YULVA21)
- サイト制作:ますた(@masu_masu_3)